水素や蓄電池

バイデン大統領で蓄電池大量導入が加速、世界に取り残される日本

野澤 哲生
日経クロステック/日経エレクトロニクス
 
 
米国の次期大統領に前副大統領のジョー・バイデン(Joe Biden)氏が就任する公算が大きくなってきました。バイデン氏は、選挙公約として4年間で2兆米ドル(約210兆円)の財政出動を約束。中でも、再生可能エネルギー(再エネ)関連産業の促進に注力するようです。

 トランプ大統領時代の4年間、米国では再エネの促進策は州単位では進められていたものの、国(連邦政府)レベルではほぼ足踏み状態でした。カリフォルニア州など再エネの導入に積極的な州の担当者は、トランプ大統領の方針を「再エネへの逆風」と述べていました。これがバイデン大統領になれば、これまでとは逆に、再エネの導入に強力な追い風が吹き出すと考えられます。実際、バイデン氏の当選確実が伝えられてから米国の再エネ関連企業の株価の多くが大きく値上がりしています。これまで足踏み状態だった米国が再エネ拡大に本腰を入れれば、世界の再エネ事業の急拡大に拍車がかかるのは確実です。特に注目すべきは、バイデン氏の公約にある、蓄電池や再生可能水素といった技術革新についての言及部分です(図1)。

図1 バイデン次期米国大統領も蓄電池とグリーン水素の拡大を公約に
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図1 バイデン次期米国大統領も蓄電池とグリーン水素の拡大を公約に
バイデン次期大統領の選挙公約の一部。日本語訳は著者

 

 世界および日本の再エネ事業を考えていくうえで、世界では常識になりつつある一方、日本ではまだ認識が進んでいないのがこの蓄電池など、大規模電力貯蔵システムの重要性です。

電気が貯められるように

 

 これまで電力系統は「電気が貯められない」ことを前提に構築されてきました。揚水発電などの電力貯蔵システムは以前からあるものの、その容量は少なく、電力系統で果たせる役割はそれほど大きくありません。また、河川の環境保護などの立場から揚水発電システムを現在の10倍、100倍と増やしていくことは現実的ではないでしょう。

 一方で、その代替となり得る電力貯蔵技術が急速に大きく2つ台頭してきました。1つがリチウムイオン2次電池(LIB)、もう1つが電力で水を電気分解して得る水素(グリーン水素)です。

 

 

 

 

技術革新で電力事業にも産業革命

 

 実際、この状況が大きく2つの技術で変わる可能性が出てきました。1つが太陽光発電風力発電。これらは自然エネルギーであると同時に工業製品であり、量産と不断の技術革新によって、LIBと同様、発電システムを製造すればするほど単価が安くなる構造があります(図5)。太陽電池の場合、それは「スワンソンの法則」と呼ばれています(図6)。実際、LIBと同様、初期の製品に比べて100分の1かそれ以下の価格になっています。ただし、現状では同時同量を守る必要から導入可能量に限界があり、継続性がありません。

図5 電力/エネルギーも(狩猟採集時代から)工業化時代へ
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図5 電力/エネルギーも(狩猟採集時代から)工業化時代へ
(図:日経クロステック)
図6 太陽電池はスワンソンの法則で作れば作るほど安くなる
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図6 太陽電池はスワンソンの法則で作れば作るほど安くなる
R. Swanson(スワンソン)氏が2006年に発表した太陽電池モジュールの1Wp当たりの価格の低下の法則。累積出荷量1M~1GWp間はスワンソン氏の2006年の論文から。それ以外は、学会「International Technology Roadmap for Photovoltaic (ITRPV)2018」の「Results 2017 including maturity report 2018」より引用

 

 この限界を払拭できるのが、2つめの技術であるLIBやグリーン水素です。これらの電力貯蔵技術が安く使えるようになると、同時同量の縛りが事実上なくなり、発電量を事業者が自由に増やせるようになります。再エネには出力の変動が予測できないという課題がありましたが、LIBやグリーン水素(燃料電池含む)などによってその欠点を補うことができ、供給電力を需要の変化に合わせて自在にデザインできるようになります。すると再エネをいっそう大規模に導入できるようになり、正のループが回り始めます(図7)。

図7 再エネの大量生産がすべてのエンジンに
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図7 再エネの大量生産がすべてのエンジンに
再生可能エネルギーの大量生産によって拓けるエネルギー新時代の全体像を示した。当初は電力供給が主な目的だが、さらに再エネの供給が続くと余剰分を水素に換えることで応用が広がる。幾つかあるループ構造はすべて電気料金や水素などのエネルギーのコスト低下につながり、それがいっそう再エネの量産とコスト低下を促すという正の循環を回す。少なくとも、石油を含めた化石燃料の完全代替までは量産のペースを緩める必要がない。(図:日経クロステック)

 するとその帰結として他の産業革命組と同様、「製品」、つまり電力の大幅な価格下落が起こります。それがLIBや再エネなどの量産をさらに加速させ、それがさらに価格下落につながるという正の循環が回り始めます。これはまさに電力の産業革命です。

 

 

 産業革命というと「Industry 4.0(第4次産業革命)」や「Society 5.0」といった言葉をよく聞きますが、これらは既に発展した産業革命組をさらに発展させるためのものといえます。対して、電力の産業革命はまだまだこれからです。ですから、電力については「産業革命1.0」なのです。

“革命”によって発電コストは1/10かそれ以下に

 

 電力の産業革命1.0が一度始まれば、その帰結は「電力のコモディティー化」です。

 これが起こった際の電気料金が2050年にいくらになるかは、ある程度定量的に予測できます。例えば太陽電池については、累積製造量とそのパネルの価格や発電コストに「スワンソンの法則」という強い相関があることが以前から知られています。太陽電池の世界における累積製造量は2050年に8500GWh超になると予測されているので、その頃の太陽光発電の発電コストはスワンソンの法則から1~4円台/kWhと推測できます。最近の価格下落の加速具合を考慮すると2050年には1円/kWhを割りこむ可能性すらあるのです。

 この発電コストに電力の平準化コストは含んでいませんが、LIBなどの価格下落も進んでいるため、そのコストを考慮しても、電気料金は2円/kWhかそれ以下になりそうです。つまり、現在の25円前後/kWhの1/10かそれ以下の電気料金が実現し得るというわけです。

 ここまで電気料金が下がれば、もちろん、既存の産業革命組には大変な朗報となります。使えば無くなってしまう化石燃料と違って、再エネはいくら使っても失われるものがありません。それどころか、電気を使えば使うほど正のループが回るので電力が安くなります。情報通信の世界が「長電話は悪」だった時代から180度転換して「常時接続ブロードバンド」に変わったように、「電気の無駄遣いは悪」といった概念そのものが意味を失うでしょう。筆者が子供の頃に流行した「もったいないおばけ」の出る幕は電力やエネルギーに関してはなくなってしまいます。

 電気料金が1/10になれば移動コストも大幅に下がります。東京・大阪間の新幹線料金が1000円台になる可能性も出てきます。食料についても、最近のアンモニア合成の新技術や、大量生産したグリーン水素を基にした再生可能アンモニアが登場してくれば、新たな農業/食糧革命によって食料の価格が下がっていくでしょう。

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 こう書くと、そんな夢物語はあり得ないという反応がきっとあるでしょう。より具体的には、太陽光発電って本当に「発電」なのか、日本でどこまで再エネを増やせるのか、資源の枯渇や高騰はないのか、送電線の容量は足りるのか、価格が1/10になったら需要も10倍になりそうだが電力供給量は10倍にできるか、現状では高コストのグリーン水素は天然ガス改質の水素より安くなり得るのか、LIBと水素の適切な使い分けや導入の順番はどうなるのか、あるいはLIBと水素以外の電力貯蔵システムはあり得るのか、既存の火力発電はなくなってしまうのか、省エネ技術は不要になるのか、といった反応です。

 筆者がここでお伝えしたいのは、電力の産業革命に向けた、再エネと電力貯蔵システムの大量導入が世界では既に始まっており、それに日本がついていけるかどうかが今後の日本の将来を大きく左右するという点です。世界の動きは驚くほど速く、欧州(EU)はこの産業革命に向かって明確に舵を切りました。バイデン次期大統領率いる米国も国家戦略としてその道に進みそうです。

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 一方、電力系統向けLIBに対する日本の国家戦略は今のところ皆無。経済産業省が旗を振っている水素/燃料電池についても、再エネ電力の平準化や貯蔵手段としての位置付けは希薄。そもそも、何のために水素を推進するのかという目的自体が漂流しています。実際には、LIBと水素/燃料電池は適切に組み合わせなければどちらも有効に機能しないので、合理的かつ戦略的な使い分けが必要です。

 “日本だけが産業革命前”という状況に陥らないよう、今すぐにも「再エネと電力貯蔵システムの大量導入」を始めねばならないと考えます。

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この日経クロステックの記事にありますように、太陽光発電風力発電と同じく、より高度な蓄電池や再生水素がこれからの時代には必須となってきます。

日本が世界に取り残されないように、ここは頑張りどころです。

リチウムイオン電池は日本が発明したものですから、日本の技術力をもってすれば、この分野でも世界の最先端に返り咲けるはずです。