山王についての記事

相川伸夫の山王(3441)ENEX展示会取材報告

 

 

~水素透過膜に大きな進展アリ!

■水素透過膜の概要


 今回の記事の本題である水素透過膜・分離膜は現状世界中で研究・開発されていますが、私としてはこの水素透過膜に関しては山王のポテンシャルは高いのではないか?と感じています。

 『水素透過膜』とは何なのか?から説明していきます。

 そもそも水素透過膜は高純度の水素を安価にかつ簡便に取り出すために研究されている手段の一つです。
 山王(3441)が産総研(国立研究開発法人)と開発した『水素透過膜』とは様々な気体から水素だけを99.999%以上で取り出す水素精製を担う技術です。

 現在の水素ステーション燃料電池車に供給されている水素の純度は99.97%以上の高純度水素であり、この水素製造方式の主流なのがPSA方式です。

PSA方式>
 原料ガス⇒脱硫器⇒改質器⇒CO変成器⇒圧力スイング吸着器(何層ものフィルター)⇒高純度水素(99.97%以上)
 設備投資には3億円は少なくともかかると言われており、現状では費用負担をペイすることが難しいので国の方針のように増えてはいません。

<山王が開発した水素透過膜>
 原料ガス⇒水素分離装置(改質器)⇒高純度水素(99.999%以上)

 水素透過膜や水素分離膜は世界中で研究・開発されており、圧延で作ってみたり、スパッタリングで作ったり、また材質もパラジウム単体やパラジウム:銀であったりと様々な物が出てきています。

 水素透過膜の優れた点はなんといっても

 【触媒】【分離】【高純度化】

 の三要素を1工程でできることに大きな利点があり、また従来のPSA方式では装置が大規模な水素プラントでしか水素生成が出来なかったのですが、水素透過膜であれば水素生成が小型化できることから家庭用の蓄電池のエネファームや中規模の工場での副生成ガスから水素を取り出してエネルギー(資源に変換)に出来、今後さらに注目される技術です。

 例えば、汚泥などのバイオマスからメタンを水素透過膜で水素精製する場合↓
 水素透過膜を用いた装置でメタンに水蒸気をぶつけることで下の化学式になります。
・CH4+H2O → CO+3H2
 …↑の反応で水素だけが透過膜を抜けてCOだけが残るが、水蒸気はそのままそそがれるので
・CO+H2O → CO2+H2
 ↑となりさらに水素が抜けて最後に高純度のCO2だけが残る。

 このCO2は農業でハウス栽培に向けて販売も可能になるので全く無駄が無く究極のゼロエミッション社会が実現できるようになります。

 水素透過膜はメタン側(入口)と水素側(出口)の気圧差で水素が出てくる仕組みなので余分な工程を設ける必要もありません。
 今までPSA方式しか主流では無かったために難しかった水素精製装置の低コスト×小型化の実現に大きく近づくことになります


■ENEXで進展を確認出来たこと


↓【2019年3月4日】の山王のIRの開示

 高強度の水素精製用パラジウム銅合金を電解めっきでワンステップ成膜 ―従来成膜法に比べ簡単・安価・省エネを実現!―
 http://pdf.irpocket.com/C3441/bFn0/MEoU/DFjC.pdf

 今回ENAXに取材に向かったのは上記の技術進展の確認です。
 上記の技術に関して現在特許申請中であり、取得できるかは現状ではまだわかりません。

 特開2019-202259「水素透過膜及びその製造方法」
 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200
 ※↑リンクが開けない時は特許検索で検索して頂くと詳細が分かります。

 私が一番最初に山王の記事を書いた時も水素透過膜の特許申請中であり、その時の名称は「金属複合水素透過膜とその製造方法」を申請していたことに着目したものでした。
 前回も水素透過膜で、今回も水素透過膜で何が違うのか??

 実は今回の特許申請は前回特許の発展⇒完成版であり、実用に耐えうるであろう品質レベル、コストメリットを兼ね備えた水素透過膜の製造方法にまつわる申請であり、前回特許に重ねて固め出しをすることからも水素透過膜事業への山王の本気度もうかがう事が出来ます。

 水素透過膜として市場にあるものとしてパラジウム:銀もありますが、山王が度重なる研究によって最も適しているのがパラジウム:銅であり、かつ47:53の膜が適している事が分かりました。
 前回の特許ではスパッタリングという方法で透過膜を生成していましたが、今回の特許では電解メッキという一般的な安価で容易でかつ早いめっき手法でワンステップ生産(ステンレス板に直接電解メッキで水素透過膜を生成して剥がすだけで完成)出来る大変素晴らしいものです。

 よって、前回2017年に取得した特許とは数段上の実用特許に成ると理解いただくと良いと思います。

 水素透過膜は様々な用途を模索している段階ですので明確に「こうなる」という事はまだ言えない段階ではありますが、こちらを見て頂くのが未来を想像するのに役立ちます。


・AHEAD(アヘッド)次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合HP
 https://www.ahead.or.jp/jp/research.html
 AHEAD(アヘッド)というのは下記4社を始めNEDOと共同で動いている水素社会実現に向けた取り組みです
 ・千代田化工建設株式会社
 ・日本郵船株式会社
 ・三井物産株式会社
 ・三菱商事株式会社

 このAHEAD(アヘッド)は有機ケミカルハイドライド法によって水素を運搬、活用していくことが主であり、これは千代田化工建設が起死回生の想いで推進しています。


有機ケミカルハイドライド


 TOL(トルエン)の水素化反応によって、軽質なガスである水素をTOL(トルエン)に化学的に付加し、常温・常圧の液体化学品であるMCHに転換して貯蔵輸送を行い、水素の需要地で脱水素反応により水素を取り出して利用、生成したTOL(トルエン)は水素キャリアとして回収・再利用します

 水素を含ませたTOL(トルエン)はMCH(メチルシクロヘキサン)と呼ばれる液体になり非常に安定しているわけです。これをAHEAD(アヘッド)ではスペラ水素という名称になっています。

 イマイチこの凄さが分からないと思うのでかみ砕きますね!

 まず、水素ステーションが広がらないのはなぜか?って言えばその理由の一つが『水素』という気体が非常に扱いづらい性質があることです。
 無味無臭で漏れても気付けなくい癖に大爆発するわ、タンクに圧縮しようとしても通常のタンクだと『水素脆化』という非常に厄介な性質をはらんでおり、さらに液体にして大容量を運ぼうとするとマイナス253度までの極低温を維持しないといけないという厄介さ!

 にも拘わらずこれだけ世界が水素にこだわるのは必要以上に溢れた電気(風力発電・太陽光・地熱・潮力)が貯えておけないからこそ、電気⇒水素に変換して貯蔵することで必要な時に電気に変換できるのです。
 また、電気は遠くまで運ぶためには送電線が必要なだけでは無く、遠くまで送れば送るほど送電ロスによって電気は大きく減る特性がありますが、水素は運搬することができます。
 そして電気が必要な場所で水素と酸素を反応させて電気に戻しても水しか出ないから究極のゼロエミッションが実現できるので将来的に必ず水素社会が来るようになります。

 つまり、水素を手軽に運搬できる手段も水素社会実現に絶対に必要なのです。

 千代田化工有機ケミカルハイドライド法によるMCH(メチルシクロヘキサン)は【常温常圧】で運搬が出来、非常に安定している液体であるのでこれまでの『ガソリン』とほとんど同じ扱い方で水素を扱う事が出来るのが非常に大きなポイントです!

 詳しくは上記のAHEAD(アヘッド)の動画やHPで詳しく理解できると思います。

※水素を運搬するのにアンモニアを使うという手段もあるのですが、こちらは 既存のインフラはそのまま使うのは難しそうです。アンモニアにもメリット・デメリットがもちろんありますので絶対にどちらが優れているとは言えないのでどうなるかは分かりませんが、私個人としてはどちらも実用化されていくのではないかと思います。


 さて、山王の水素透過膜に話を戻します。
 先ほどのMCHに対しても山王の水素透過膜は活躍できるそうです。
 現状は先ほど説明したようにMCHが一番水素キャリアとして安定(常温・常圧である。アンモニアは有毒性が非常に高い)しており、例えばガソリンのようにMCHをタンクに入れてそれを水素透過膜で水素を取り出して走行することも出来る(あくまで理論上)と考えられるようです。水素透過膜とMCHに+熱源が必要なので水素を取り出す方法は色々と模索されています。
 ちなみに水素を取り出したMCHはTOLの液体に戻るので循環して使うことが可能です!

 先ほど話したように水素透過膜というのは大掛かりな大量生産よりも小型装置での活用が期待できます。

 展示会において山王の水素透過膜の他社とのベンチマークについて確認したところ、企業の性質上明確に他社より強い弱いという言質は頂けなかったので、あくまで私個人の感覚だと断っておきます。

 山王の今回特許での電解メッキは3μmの膜厚も安定して生成出来ます。
 他社での圧延での生産であり、厚みも20μmが限界ではないかと考えられるのでこちらより山王に圧倒的に軍配が上がると思います。
 また大学発表での窒化チタンによる水素分離膜に関しては2017年以降の続報が確認出来ないので、そちらは進展が無いのでは?と考えています。

 ちなみに山王の電解メッキの場合はBCC構造(体心立方格子構造)になり、透過性能も向上しており、前回特許での製法と強度比較しても破膜荷重は3倍で延びも2倍弱と大きな性能強化も果たせている。

 なお、水素透過膜の『実用化に向けた取り組み』に関しては山王以外には他
社でやっている所は知らないという心強い回答が得られました。

 市場規模のどれだけに行けるかはまだまだ分からないですが、中小企業に関しては水素透過膜の使用可能性の期待はとても高く、PSAでの水素供給はコストや設備サイズから大手企業にしか出来ないですが、水素透過膜であれば工場蒸気であったりエネファーム、さらには災害時の緊急エネルギーとして水と太陽光パネルと水素透過膜があれば緊急時の設備にも出来るとのことです。


 以下は私が取材したときのQAでの印象的な一部の回答です。

Q1:水素透過膜が出来たのは山王の表面処理のコア技術があったからこそでしょうか?
A1:それは間違いなくその通り。新たな事業拡大をしていくにあたり、自分たちが出来ない所に行くのではなく、コア技術を活用する先にどんな活用があるかを模索していくことで辿りつけた技術。

Q2:アピールできるところとして、他社に比べてどの程度の力があると感じていますか?
A2:一言にメッキと言っても実に多種多様なものがある。アップルにも部品納入している実績もあり自信はあるけれども、バリアメッキやスポットメッキ等顧客から求められる技術に関しても様々なものがある。他社と比べて遜色ないのは間違いないとは思っているが、謙遜し過ぎかもしれないけどNO.1とは私の口からは言えない。さらに研鑽していく。

Q3:今回の水素透過膜の電解の一番の売りは何ですか?
A3:水素を選択的に通す部材を電解メッキ1液でワンステップで作れるようになったのがもっとも大きな利点。

Q4:電解メッキ1液で作れる基材はなんですか?
A4:ニッケル多孔質メッキは用途で行くとパラ銅の支持体のバックプレートで強度を上げるために付けてる。ステンレス剥離板上にパラジウム:銅の膜を付けて作り、この上に水素透過膜を作成する。ステンレス剥離板は使いまわすことが出来る。水素透過膜はパラジウム銅の合金であり、これ自体が完成品になっている。

Q5:析出速度はどんなレベルでできるのでしょうか?
A5:電流と電圧の関係と被メッキ面の面積の問題で析出速度は決まってくるので一概にどのくらいとは表現できない。一般的な電解メッキ。

Q6:耐久性に関しては金属複合水素透過膜と今回の水素透過膜はどっちが強い?
A6:これらは全く違う別物で、今回の水素透過膜が完成版。前回の時には開発途上だったと感じている。今回工程も確立出来て、実用段階に合わせている段階である。理論値では実用レベルに十分耐える製品である。


~以上が展示会での取材報告になります。


 3年前よりもかなり進展していることが分かると思います。
 まだ業績に反映されるタイミングでは無いですが、これが実現した暁には大きく企業の立ち位置が変わってくるのではないか?

 こういう下町ロケットのような夢のある企業を長期で応援するのは非常に楽しいですね!

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この展示会報告記事を読めば、これからの脱炭素社会に向けて、水素がどのように活用されていくのか、どの企業が有望なのかがよくわかります。

 

水素というものが蓄電池と同じ働きをするもの、つまり、再生可能エネルギーで得られた電気は蓄電池に蓄えられるのですが、その代わりに、その電気で水を水素と酸素に分解して貯蔵し、水素を燃焼させてエネルギーを得るというやり方があると言うことです。

 

そして、山王が開発した水素透過膜は、数年前と比べ格段に進化しており、性能の飛躍的な向上とともに実用化レベルに達していることがわかります。

 

バイデンも水素について言及しています。

脱炭素社会に向けては水素は絶対に必要になるものでしょう。

 

この報告記事からすれば、山王は大きな可能性を秘めた会社だと言うことがわかります。

                  (11月16日正午)